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新書太閤記 吉川英治歴史時代文庫

新書太閤記〈1〉 (吉川英治歴史時代文庫)
新書太閤記〈1〉 (吉川英治歴史時代文庫)
吉川 英治(著)

太閤記にもいろいろありますが、この小説はおそらく、本屋に並んでいる作品の中でも、もっとも長い太閤記ではないでしょうか。全11巻。読み終えた後、秀吉と一緒にひとつの人生を歩んできたような感慨があります。

とんとん拍子に出世した印象のある秀吉ですが、その実、信長に仕えてからでも「逆境なしという年は一年もない」というほど、苦難の連続でした。秀吉は壁にぶち当たっても腐りません。物事がうまく進まない現状そのものを面白がって笑います。「逆境おもしろし」と、敢然と立ち向かえる心の余裕があります。

自分にできるだろうか、と思います。逆境を面白がる心の余裕は大切だとわかっていても、実際に自分がそうなったときにどれだけ心から笑えるか。できないかもしれません。たぶんできません。でも、できない自分を発見することが何かの第一歩だとすれば、うまくすれば第二歩があるかもしれません。そのためにもまずは第一歩。

さて。ダメ人間秀吉。

下積み時代の秀吉は身を立てる道をさがしてチャレンジを繰り返します。しかし何をやっても芽が出ず、周囲からもダメ人間として見られるようになります。

村の厄介者と蔑視されながらも、秀吉は母を想い、姉を想い、いつか家族に楽をさせてあげたいと励みます。彼はどんな仕事も愛して、どんな役割にも真剣に取り組みました。使いを命じられれば使いになりきり、庭掃除を命じられれば庭掃除になりきり、見張り番に立てば、それになりきる。秀吉に出世の極意があるとすれば、これに尽きます。

なぜ秀吉はそんなにも仕事を愛せるのか。それは「現在の仕事は、常に、次への希望の卵だった」からです。その卵をしっかり抱いてあたためて、やがて「希望に翼がはえて生まれてくる」のを、彼はじっと待っていました。裏を返せば、卵に希望を託さざるを得ない厳しい現実があったのかも知れません。

秀吉は「今の世の中で、身を立てるには、何がいちばん大事か」と考えます。身を立てるのに必要なことは、まず家柄、さらに金と武力、そして戦働きのできる強い肉体、あるいは学問…。そのどれも、秀吉は持っていません。ではどうするのか。

秀吉は答えをみつけます。忠実、ということです。仕事に忠実になる。家柄も金も学問もないが、仕事に忠実に励むということだけは、裸になってもできる。それが秀吉の答えでした。どんな仕事でも、与えられた役割になりきって、天職と思って取り組む。それが秀吉の出世物語の原動力になっています。

at 15:59, あーりー, 歴史小説

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