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国盗り物語 - 殺すも正義 盗むも正義

国盗り物語〈1〉斎藤道三〈前編〉 (新潮文庫)
国盗り物語〈第1巻〉斎藤道三 編
司馬 遼太郎(著)

池波正太郎の『信長と秀吉と家康』でスムーズに歴史小説の世界へ入り込んだ僕がつぎに読んだのは、司馬遼太郎の『国盗り物語』でした。

『国盗り物語』に出会うまで、僕は主人公が悪の小説を読んだことがありませんでした。しいて言えばモーリス・ルブランの『怪盗ルパン』シリーズくらいなものですが、アルセーヌ・ルパンは怪盗紳士というだけあって、やはり紳士です。本当の悪ではありません。人も殺しません。

しかし『国盗り物語』の主人公・斎藤道三は違います。

殺すも正義。盗むも正義。
そういう世界です。ピカレスクに免疫のなかった僕が、戦国小説の中でも最高のピカレスクを読んでしまったわけですから、すぐにその魅力に取りつかれてしまいました。

『国盗り物語』は前半と後半で主人公が変わります。それも僕にとっては楽しい初体験でした。この物語は全部で4巻あります。前半、つまり1巻と2巻の主人公は斎藤道三です。後半、3巻と4巻の主人公は織田信長となっています。

国盗り物語〈第1巻〉斎藤道三 編
国盗り物語〈第2巻〉斎藤道三 編
国盗り物語〈第3巻〉織田信長 編
国盗り物語〈第4巻〉織田信長 編

後半の織田信長編では、同時代人とかけ離れた信長の思考に魅了されました。例えば…

信長は明智光秀に比叡山の焼き打ちを命じます。しかし光秀は仏像を焼くなどとんでもないとして、焼き打ちに反対しました。信長は不思議な動物をでも見るように光秀を観察していましたが、ふと顔をのぞきこんで次のように言いました。

「そちは知らぬとみえるな、あれは」
 と、さらにふかぶかと光秀をのぞきこみ、
「金属と木で造ったものぞな」
 真顔でいった。
信長は親切にも、仏像のつくりを光秀に教えてあげたのです。光秀もそんなことは知っています。問題はそこではないのです。信長にはそれがわかりません。天然です。天才と天然は紙一重なのだと、非常に面白く読んだ覚えがあります。

信長と周囲との感覚のズレ。そのズレによって周囲が振り回されます。信長には周囲を振り回しているという自覚はありません。ただ目的に向かってまっしぐらなだけです。それだけに事態は深刻でもあり、滑稽でもあり、狂気すらおびて見えます。

家臣・明智光秀の視点が多く取り入れられているため、信長的な思考と教養人たちの常識とのコントラストがいっそう鮮明になっています。

at 15:33, あーりー, 司馬遼太郎

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