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武田三代 - 信虎、信玄、勝頼

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武田三代 (文春文庫)
武田三代 (文春文庫)
新田 次郎(著)

武田信虎信玄勝頼の3代を描いた短編小説集。読み応えのある作品ばかりです。安心して歴史小説の世界に身を任せられます。

収録されている作品は次の通りです。

信虎の最期

武田氏の戦術・戦略を著した軍学書「甲陽軍鑑」には、武田信虎の死のことが書かれています。そこにはただ“信虎公やがてご他界なり”と記されているだけです。この一行をふくらませたのが、短編「信虎の最期」です。

タカ狩りのとき、タカの扱いが悪いという理由で部下を斬る。その帰り道、吠えついてきた犬の飼い主を斬る。さらに、それを制止しようとした部下2人を斬る。

武田信虎の狂刀は、おさまる気配がありません。そのため彼はとうとう家臣に愛想をつかされ、計略によって国を追われてしまいました。

その信虎が33年ぶりに武田領へと戻ってきました。家臣たちは動揺します。信虎は家臣たちとの面会の席でまたも刀を抜きます。

見せ場は、なんといっても信虎の死の真相です。最後のサプライズでこの短編がいっそう引き締まった印象を受けました。

『武田三代』には全部で7つの短編が収録されています。「信虎の最期」は昭和50年に発表されており、7編の中で一番最後に書かれた作品です。新田次郎のあの長編小説『武田信玄』よりもあとに書かれたということになりますね。

異説 晴信初陣記

16歳の武田晴信(信玄)は、父・武田信虎から海の口城の攻略を命じられます。海の口城は天然の要害。簡単には陥とせません。

それでも晴信はみごとな采配で攻城戦をすすめていきます。作戦はうまくいっていました。しかし、晴信は違和感を覚えます。自分は誰かにあやつられている、という違和感です。

名将“武田信玄”誕生の瞬間が描かれています。家臣たちの心が暴君・信虎から離れ、晴信に向けられていく様子がシビアでもあり、痛快でもありました。

消えた伊勢物語

昭和43年4月号の『推理ストーリー』で発表された短編です。

永禄9年(1566年)2月のはじめ。武田信玄が大切に保管していた伊勢物語の原本が盗まれているのがわかりました。信玄はさっそく部下に捜索を命じます。犯人は誰なのか。これはただの盗難事件ではありませんでした。背後には大きな陰謀が…。

この騒動の中で信玄の家臣飯富兵部は、信玄の子・義信のことを思ってある配慮をします。

しかし、それがかえって飯富兵部と信玄との間に溝を生むことになってしまいます。その溝が、永禄10年の悲劇につながっていきます。飯富兵部の不器用さ、やさしさが心に残りました。

また、武田信玄今川義元北条氏康の3人が連盟のために勢揃いするシーンがあります。3人は仲良くひとつの部屋に集まって、伊勢物語について雑談をします。面白い光景でした。このとき北条氏康は伊勢物語にほとんど関心を示しませんでした。しかし、あとから思えば、それも計算だったのではないかと勘ぐってしまいます。

まぼろしの軍師

ぜひ読んで頂きたい作品です!

戦国時代の最終的な勝者となった徳川。その徳川を、かつて三方ヶ原の戦いで徹底的に叩きのめしたのは、武田でした。徳川の世になると、武田の強さは伝説となりました。その伝説を支えた男の一人が、軍師・山本勘助です。

織田信長が本能寺に散った天正10年。山城国・妙心寺に鉄以(てつい)という僧がいました。山本勘助の息子です。むかし、山本勘助が立身を夢見て風雲に身を投じた際、寺にあずけられたのです。

それから30年。鉄以は一度も父の消息を耳にしていませんでした。父が武田に仕えているらしいとは聞いていましたが、その武田も今は滅びています。父もまたどこかの戦場で一兵卒として死んでいったに違いない。鉄以はそう思っていました。

そんな鉄以のもとに、一人の老人が現れます。三枝(さえぐさ)十兵衛と名乗るその老人は、山本勘助とともに武田に仕えていたといいます。老人は山本勘助のことを語り始めます。

山本勘助が武田の軍師だったこと。武田の連戦連勝は勘助のおかげだったこと。そして川中島の戦いで壮絶な戦死を遂げたこと。

語り終えると、老人は息絶えました。

鉄以は甲斐に旅立ち、父・山本勘助のことを調べはじめます。すると意外な事実がわかってきました。現地の人々は口をそろえて「山本勘助という名前は、聞いたことがない」というのです。老人から聞いた話と現実との間には、大きなギャップがありました。

武田ファン、勘助ファンの方にはもちろん、たくさんの戦国ファン、歴史ファンの皆さんにもぜひぜひ読んで頂きたい小説です。読み終えた後、少しだけ悲しい気持ちになりました。そして少しだけ救われた気持ちにもなりました。

これは何なんだろうと思って、すぐにもう一度読み返しました。もう一度読み返したい小説はたくさんありますが、このとき「まぼろしの軍師」はぶっちぎりで優先順位ナンバー1になっていました。

父と子のすれ違い。きずな。夢。歴史がつくられていく面白さ。すべてがそろっています。おすすめです。

孤高の武人

主人公の桜井信久は、武田勝頼に仕える武将です。ある日、桜井信久は村の娘を気に入って側室にしました。すでにその娘には恋人がいましたが、村の豪士たちは桜井信久の機嫌を損ねることを恐れて、内密のうちに2人を別れさせ、娘を差し出したのです。

娘の恋人だった若者は、ひそかに桜井信久の家臣となってそばに仕えるようになりました。桜井信久はこうした事情を知りません。自分のそばに仕える若者が何者なのか、正体を知らずにいるのです。

そんな折り。武田勝頼が木曽攻めを宣言します。信玄の時代には戦国最強といわれた武田も、勝頼の代になって衰亡の一途をたどっていました。勝ち戦さは望めません。桜井信久は武田の滅亡を覚悟します。


落城寸前の城で、桜井信久が辞世の句をしたためます。

うつりゆく花のかおりのつきぬ間に…

しかし、あとが思いつきません。そのとき、敵の忍者が背後から現れて、

梅に身をよすうぐいすの声

と続けます。これ、じつは暗号になっています。桜井信久はいつ背後から切られてもおかしくない命の危険の中で、この暗号の意味を冷静に読み取ります。こうした桜井信久と忍者のかけひき。好きです。極限状態での読み合いは、この小説の大きな見せ場です。期待を裏切りません。

火術師

天正7(1579)年。武田勝頼の時代のはなしです。百姓の利吉は、ある事情から恋人のおもんと2人で夜道を急いでいました。そこへ番小屋の男たちが姿を現し、言いがかりをつけてきます。

利吉はおもんを守るために抵抗しますが、逆らった罪をとがめられ、無期限のあいだ無報酬で働かされることになりました。

この騒動の中で利吉は、鹿崎八郎と名乗る火術師と出会います。利吉は彼から「つらくとも我慢しろ。2年経つうちには、きっといいことがある」といわれます。2年。その言葉には、深い意味がありました。

やがて。

のろしが上がります。一筋の火炎が赤い火花を散らしながら星空にのびていき、武田の滅亡がはじまりました。まるで武田3代の歴史が火炎とともに星空に散っていくような気がしました。

また、

「二つの火焔が手でも握り合うようにもつれながら赤い焔を吹き上げてい」る様子は、離れ離れになってしまった利吉とおもんの再会を暗示しているようでした。

炎に焼かれた栗の実が音を立ててはじけます。栗の実こそ、2人が恋に落ちるきっかけとなったものでした。栗のはじける音は、2人の新しい未来を祝福するクラッカーにも聞こえました。

武田金山秘史

これからは鉄砲の時代だ。武田勝頼に仕える武将・穴山梅雪には、それが分かっていました。

長篠の合戦を前にして、穴山梅雪は鉄砲隊の編成を強く進言しますが、勝頼に却下されてしまいます。武田には強力な騎馬軍団があるので、鉄砲に頼る必要などない、と勝頼はいいます。結局、鉄砲を買う予算はおりませんでした。

そこで穴山梅雪は一計を案じます。まず堺の商人・塩屋三郎四郎を武田家の経営する金山に案内します。そうやって武田の財力を見せつけておいてから、代金あと払いで鉄砲を融通してもらおうという計画です。

ところが。武田の金山を目にした塩屋三郎四郎に、ある野心が芽生えたため、事態は思わぬ方向へ展開していきます。

武田の金山をめぐるドラマが巧みな展開で描かれています。とても楽しめます。武田の埋蔵金の隠し場所を知る者が、一人また一人と死んでいき、歴史の大きな謎となっていくプロセスに惹きつけられました。

at 10:18, あーりー, 歴史小説

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